移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜


第三章 ぬり絵(第二週)
96年6月24日(月)=午前=コークヤイ小(前編)

 ワゴン車のエンジンをきると人工の音はなにひとつ耳にはいってこない。風の音だけがきこえる。

 しんとしずまりかえった高床式の木造校舎から一年生と二年生たちがセキをきったようにとびだしてきた。ちいさく、チョコチョコと、ハツカネズミの集団のようだ。わたしの姿をみつけた男の子たちがそばへよってきた。十人ぐらいいるだろうか。胸の前で両手をあわせて、「コンニチハ」と日本語でわたしにあいさつした。歌を口ずさむように「コンニチハ、コンニチハ」とつぶやいている子もいる。

 高床式校舎の下へ全員そろったところでクローンゲーオ先生が口をひらいた。

 「きょうで移動図書館は何回目?」

 「二回目でーす」

 「このまえ練習した『本は友だち』の歌をおぼえていますか」

 「はあい、おぼえています」

 「ではみんなでうたってみましょう。一、二、三!」

 一年生から六年生まで全校児童たちは声をそろえて力いっぱいうたう。つかえることなく、完璧におぼえている。

 ニッタヤー先生が青いおおきな紙を前にかかげた。「あいさつの歌」と題名がかいてある。その下につぎのような歌詞がならぶ。何人かの子供たちがボソボソと歌詞を読みだした。

  こんにちは こんにちは

  きょう 君にあえて

  うれしいな たのしいな

  お元気ですか

  わたしは元気 心も体も

  さあ 力いっぱいうたいましょう

 「さあ、全員で声をそろえて読みましょう」

 クローンゲーオ先生の合図で子供たちは声をそろえて歌詞を読む。

 「この歌をしっている人、いますか」

 「はい。うたえます」

 数人の子供がこたえた。

 「ではうたってみて」

 うたえる、といった子供たちは歌詞をみながらうたう…だが「歌」になっておらず、ほとんど棒読みしているのとかわらない。どうも正確にはしらないようだ。

 クローンゲーオ先生が中心となって子供たちに歌詞とふりつけを指導した。合計で七回うたった。この時点で子供たちは歌・ふりつけとも九割方おぼえた。

 ちょうど午前十時になったところで三つの班にわかれ、読書やぬり絵がはじまった。

 一・二年生にはコークヤイ小学校の女の先生がこの日も指導にくわわった。とても積極的な先生だ。

 「きょうはゲーオ先生がアイスクリームをみんなにあげましょう。君たちはアイスクリームすきですか」

 子供たちはいっせいに手をあげる。

 クローンゲーオ先生がアイスクリームの絵がかいてあるぬり絵のプリント用紙を子供たちにみせ、「あとでみんなにもこの『アイスクリーム』をくばってあげますね。そのまえに読書しましょう」

 男女別にわかれてそれぞれ輪になって子供たちは本を読む。はじめの五分ほどは絵本をながめているが、すぐにあきてしまう。十分で読書をきりあげ、ぬり絵にうつった。

 子供たちはコークヤイ小学校の女の先生からぬり絵のプリントを一枚ずつもらい、自分の場所でさっそく色鉛筆をはしらせる。男の子たちは左右の友だちとちいさい声でおしゃべりしながら、女の子たちはむだ口をたたかずに、それぞれぬり絵に没頭している。読書のときとはまったくちがう。低学年の子供たちにとってぬり絵は本よりも数倍たのしいもののようだ。

 女の子にくらべると男の子はぬり絵にあまりなれていない。つかう色の種類がすくなく、一色で三つの枠をまとめてぬりつぶす子も何人かいる。またぬり絵の速度に個人差がかなりある。はやい子供は十分たらずでしあげた。だがおそい子は三十分いじょうかかってもまだ未完成だ。しかし一〇〇%の児童たちがぬり絵に熱中。あきてとちゅうでなげだす子供はいない。

杉浦 直樹


[BANGKOK SHUHO]