移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜


第三章 ぬり絵(第二週)
96年6月21日(金)=午後=コー小

 となり村とはいわないまでもコー小学校とクアン小学校は車で十分ほどの距離にある。にたような経済状態の村の小学校なのにコー小学校はクアン小学校と対照的だ。子供たちはおとなしく、規律ただしい。児童数が三分の二ていどと学校の規模がちいさいことが多少は関係しているのだろうか。

 全校児童があつまり歌の練習をするとき、三班に分散するとき、読書のとき、三人の指導員たちが大声をはりあげることはない。この日の指導もきわめて円滑にそして終始しずかにすすんだ。

 「食堂」とかかれた平屋の建物では三・四年生たちが一列にならび、ひとり一冊ずつ順番に絵本を箱からとりだしている。そしてゴザの上にきちんとすわって本をひらく。読書がはじまった。子供たちは小声にだして熱心に読む。まわりの友だちとふざけたり、となりの子の本をのぞきこんだりする子供はいない。しずかだ。ここには「アヌーン君」はいない。

 四年生で、まったく文字の読み書きができない女の子がひとりいる。自分の名前もかけない。コー小学校の先生は「知恵おくれ」という。本をひらいているものの、つまらなそうに絵をながめているだけ。ニッタヤー先生が子供たちに声をかけた。

 「自分で読めない子は、読める人といっしょに読書しましょう」

 「知恵おくれ」だという女の子も横の友だちがゆっくりと絵本を音読してあげている。だが内容をほとんど理解できていないし、本にあまり関心をしめさない。せっかくとなりの友だちが読んでくれているのだが、本とはちがう方向をみている。

 一・二年生は正門にちかい木造の平屋校舎にあつまった。クローンゲーオ先生の絵本の読み聞かせや読書がすみ、午後二時四十分ぬり絵にはいった。クローンゲーオ先生は子供たちを三つの班にわけ、ぬり絵のプリントを子供たちにみせる。

 「いまからぬり絵の用紙をくばります。まずここに(といって一番下の部分を指さす)名前をかきましょう。みんな自分の名前はかけますね」

 「かけます」

 クローンゲーオ先生がプリントをひとりずつへわたす。子供たちはかならず、胸の前で手をあわせ「ありがとうございます」といってからプリントを手にとる。板張りのろうかにじかにすわった子供たちは、色鉛筆のはいったカゴをかこみすぐにぬりはじめた。

 ここの児童たちもぬり絵がうまい。何種類もの色鉛筆をつかい、枠からはみださず、ていねいにぬっている。クローンゲーオ先生の話では、ここ二、三年各小学校に幼稚部を併設しつつあり、小学校にあがる前に子供たちはぬり絵の経験があるためだ。

 わたしの記憶にまちがいがなければ、移動図書館の第六期・第七期の小学校ではこんなにじょうずではなかった。つかう色鉛筆も一、二種類で、乱雑にぬりたくる子供ばかりだった。「たくさんの種類の色をつかって、きまった枠のなかへきれいに色をぬる」という能力を身につけるため、移動図書館でぬり絵の時間を導入したのだった。

 午後三時十五分、ぬり絵がおわった。子供たちは自分の作品を手にもち、運動場の周囲をはしる小道をあるいて三・四年生のいる食堂へいく。もちろん一列になって。

 「みんなそろいましたか。ではさっきの歌をもう一度うたってみましょう」

 「さっきの歌」とは、さきほど合同で練習した「あいさつの歌」。プリッサナー先生が手拍子をはじめると、木陰にすわった五・六年生たちはいっせいにうたいだした。

  こんにちは こんにちは

  きょう 君に会えて

  うれしいな たのしいな……

 まだ完全におぼえていない子もいる。

 「全員、起立!」

 プリッサナー先生の号令にみんなたちあがった。男女ひとりずつの組になり、「あいさつの歌」を二回うたう。男の子も女の子もいくぶんはずかしそう。

 歌のあとは男女混合の四つの集団にわかれてゲームをしたり読書がおこなわれた。午後三時十五分に本箱とゴザをかたづけるまで子供たちはむだ口をたたいたり、悪ふざけをすることなくまじめに活動にとりくんだ。

 食堂にふたたび全校児童が一同に会した。プリッサナー先生がゆっくりとはなしだした。「きょう五・六年生はたくさん本をよみました。ほかの活動もしっかりできました」

 ついでクローンゲーオ先生。

 「一・二年生も上級生のおにいさん・おねえさんにまけないくらい立派に活動にとりくみましたよ」

 「三・四年生だってしっかりお勉強ができました。コー小学校はみんなとても優秀です!」

 最後にニッタヤー先生がしめくくると、子供たちからおおきな拍手がわきおこった。

杉浦 直樹


[BANGKOK SHUHO]