移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
第三章 ぬり絵(第二週)
96年6月21日(金)=午前=クアン小(後編)
五・六年生はおおきい東屋にのこり活動をはじめた。番号をかいておりたたんだ紙片をカゴをにいれてプリッサナー先生が子供たちのあいだへまわした。紙には一から四までの数字のうちどれかひとつがかいてある。ひとりひとつずつ紙片をとり、おなじ番号の子供同士で班をつくり班長をきめた。
一時間ちかく読書をしたあと、子供たちはドミノゲームですごした。「山」「犬」「本」など、一枚の横長のカードの左半分に絵、右半分にイギリス語の単語がかいてあり、おなじ単語と絵をつないでゆく。
「dog、dog、えーと、犬だ。犬の絵のカードをさがせ」「catだから、猫、猫。猫はどこだ」などと子供たちはささやきながら各班のなかで熱中してゲームにとりくんでいる。
五・六年生からすこしはなれたちいさいほうの東屋では一・二年生の男女がそれぞれ一列ずつになり、むかいあってたち「あいさつの歌」を練習。だが熱心にうたう子もいればぼんやりつったっている子もいる。
「黄色いシャツをきている子はいますか」
クローンゲーオ先生がたずねると、制服の下に黄色のTシャツを身につけている男の子がひとり前にすすんだ。クローンゲーオ先生が彼に絵本を一冊わたし、言った。
「さあて、本のもち方・ページのめくり方をやってみてください」
左手に本をもち、右手でゆっくりとページをめくる。先週おしえてもらったことをしっかりおぼえている。
「どうですか、みんな。彼の本のもち方はただしいかな」
「はい、あっています」
つづいて絵本の読み聞かせがしずかにはじまった。
「アヒルの口の王女様」。
…顔はとてもきれいなのに、話し方が乱暴でことば遣いがきたないお姫様がいた。それをなおすために王様は魔法使いのおばあさんに相談した。一計を案じた魔法使いのおばあさんが特製のサクランボをお姫様にたべさせると、お姫様の口がアヒルの口になってしまった。お姫様はたいへんなやみ、かなしんだ。やがてお姫様は反省して、きれいなことば遣いをこころがけるようになり、もとのかわいい姿にもどった…という物語である。
読み聞かせがすんでからクローンゲーオ先生は子供たちによびかけた。
「いいですか、君たちも乱暴な話し方をしているとアヒルの口になってしまいますよ。だからきれいでただしいことば遣いをするようこころがけましょうね」
このあとの読書は案の定、子供たちはあまり熱心ではない。本をウチワがわりにしてあおいだり、くるくる回してあそんだりしている。そしてひじょうに騒々しい。
早々に読書をきりあげてぬり絵にはいった。これは移動図書館専属指導員のてづくりプリントで、アイスクリームの絵がえがいてある。
子供たちはクローンゲーオ先生からプリントを一枚ずつもらうときもなかなか一列にならばない。しかも「おうい、おしただろう、おまえ」「おしてねえよ」となぐりあいのけんかをしている子もいる。クローンゲーオ先生が声をからしてさけぶ。
「プリントを手にしたら、まず名前をかきましょう。ほらほら、そこ、けんかしないで!色鉛筆はなかよくつかいなさい」
二年生の男の子たちがもっともさわがしい。
「アカエンピツ、赤はどこだ!」
「ああー、それ、いまぼくがつかおうとおもっていたのにぃ、もう」
だが予想していたいじょうにきちんとぬっている。枠からはみださないし、何種類もの色をつかいわけている。
ぬり絵が終盤にさしかかったころ、何をおもったか、とつぜん木のぼりをはじめた男の子がいた。それを見てまわりの子がさわぎだした。そして写真機をぶらさげているわたしにしきりにせがむ。
「あいつ、猿なんだぜ。ねえ、『お猿』の写真とってよ」
高さ六、七メートルはある大木で、葉がおいしげっている。かなり上までのぼってしまったので写真をとりにくかったが、一枚だけストロボをつかい撮影した。カシャッとシャッターをきる音がしてストロボがひかると、そばにいた十人ちかくの男の子たちが「ワーイ」と歓声をあげた。
木にのぼった男の子はほんとうに猿みたいだ。なかなかおりてこない。途中までおりてくるが、またスルスルッと上のほうへいってしまう。
最後にふたたびおおきいほうの東屋へ全校児童があつまり、移動図書館の指導員たちにお礼のあいさつをした。ところが、「先生、どうもありがとうございました」のひとことをいうのになかなか声がそろわない。五度やりなおしをさせられた。
元気のみの子供たちだが、なんとも魅力的だ。
杉浦 直樹
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