移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
ノーンオーノーイ小(後編)
きょうで三日連続移動図書館の巡回に同行してきたが、どうしてこんなに暑いのか。この日は雲がでているが、死にたくなるほどの暑さだ。小学校でつめたい水を準備してくれ、いっきに三杯のむ。だがすべて大量の汗にはやがわり。いくら水分をとってもノドの渇きはいやされない。本日も気温四〇度はあるだろう。空気が、風が暑い。炎天下右へ左へあるきまわり取材しているが、まいにち体力の限界にいどんでいるようなものだ。熱風でも、たまに吹く風がとてもここちよい。ペンをはしらせる紙のうえに汗がおちる。
五・六年生のいる「学校の森」は、葉がしげった背のたかい樹木がびっしりとそびえ、すずしい。数種類の鳥のさえずりがきこえてくる。
やがて五・六年生は読書にはいった。色とりどりの絵がえがいてある絵本・図鑑に子供たちの人気が集中している。森のなかに子供たちの音読するちいさな声がこだます。ゆったりとした時間がながれている。
ひとりだけ女の子で、ノーンオーノーイ小学校の女性の先生に本を読んでもらっている子がいる。この女の先生によると、彼女の名はアリーちゃん。「知恵遅れ」だという。読み書きがほとんどできない。会話力もいちじるしくおとっている。外見ではまったくわからない。やさしくかわいらしい表情をしており、おとなしいふつうの女の子にみえるのだが。
「では、自己紹介をしてもらいましょう」
ニッタヤー先生がそう言うと、三・四年生はひとりずつたちあがってその場で名前と愛称をハキハキとのべてゆく。
読書ノートのかき方をひととおり説明すると、ニッタヤー先生はプラスチックのかごに整然とおさめられた鉛筆と消しゴムを子供たちにみせた。
「鉛筆と消しゴムは移動図書館でみんなにかしだします。わざわざ自分で買ってそろえる必要はありません。そのかわり大切につかってね。それから、鉛筆と消しゴムはたべれるかな」
「いいえ、たべれません。たべたらまずいとおもいます」
「そうですね。だから鉛筆や消しゴムを口にくわえたりしてはいけません」
ニッタヤー先生の説明がおわると、子供たちはひとりずつ順番に読書感想ノートと鉛筆などをニッタヤー先生のところまでとりにくる。
「読書感想ノートもおりまげたり、かんだり、やぶったりしないように」
子供たちはニッタヤー先生の注意に耳をかたむけながら読書感想ノートに必要事項をかきいれてゆく。
児童たちはブツブツ小声にだして読書している。平均すると一冊よみおわるのに要する時間は三〇分ぐらい。午後三時すぎまで読書がつづいた。
日陰にペタンとすわった一・二年生の前に青い木箱がおいてある。クローンゲーオ先生が箱を指さしながら話しはじめた。
「さあて、ここに何がはいっているかな。ヘビかな、アヒルかな?」
「ちがいます、本でーす」
「アハハハ。そうです、ヘビなんかはいってませんよね。本を読む前に本のもち方・ページのめくり方を練習しましょう」
クローンゲーオ先生が本箱のなかから一冊の絵本をとりだし、もち方・ひらき方を実演してみせる。児童たちもちいさな手で必死にまねをする。
子供たちはクローンゲーオ先生からひとり一冊ずつ絵本をもらうと、ひとつのおおきな輪になって本を読みはじめた。クローンゲーオ先生は子供の輪のなかをまわりながら、本のあつかい方を手をとっておしえたり、一年生を中心に絵本を読んであげている。
たまにやたらと大声をはりあげて読書している子がいると、クローンゲーオ先生は苦笑いしながら注意する。
「まわりの友だちに迷惑がかかるから、もうすこしちいさい声で読もうね」
午後三時になると本をしまい、歌や踊りをとりいれたゲームをしてすごした。
ノーンオーノーイ小学校の校長先生はたいへん話ずきだ。なにかとわたしのそばへよってきては世間話をしたがる。午後三時二十分ごろだったか、一・二年生の活動の様子を記録していると、肩からぶらさげたわたしの写真機をみながら校長先生が話しかけてきた。
「わが校の教職員全員と移動図書館の指導員のみなさんといっしょに記念写真をとりたいのだが、あなたの写真機で撮影してもらえないだろうか。うちの小学校には写真機がないので」
あいにくフイルムを全部つかいはたしてしまったので、次回の巡回日(六月二十八日)にとることを約束してわかれた。
杉浦 直樹
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