移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
96年6月7日(金)=午後=ノーンオーノーイ小(前編)
第八期(一九九六年四月〜一九九八年三月)の移動図書館で巡回している十三の小学校でもっとも北にあるノーンオーノーイ小学校は、村の過疎化にともないすこしずつ児童数がへっている。農業ばなれがすすみ、村をはなれてちかくのナンポーン郡中心部やコンケーン市内へうつる家庭がこのところめだちはじめたという。
児童数は現在九十四人だが、一年後あるいは二年後はいまよりもっとすくなくなっているかもしれない。教員は七人いるが、幼稚部(年少組と年長組)をふくめ八学年あるのであきらかに教師の数がたりない。幼稚部の先生はひとりで年少組・年長組をかけもちし、校長先生が三年生をうけもっている。
小学校へつくと校長先生ら学校側と移動図書館の三人の指導員がまず顔あわせ。プリッサナー先生が移動図書館の活動内容や運営方法などについて説明した。
「移動図書館の専属指導員を紹介します。こちらがニッタヤーで、三・四年生を担当します。その横がクローンゲーオで一・二年生をうけもちます。わたしは五・六年生を指導するプリッサナーです。では先生方にも参加していただき、お手伝いをおねがいします。移動図書館の活動時間は一回につき二時間。午前のばあいは九時半から十一時半まで。午後なら一時半から三時半までです。原則として対象は一年生から六年生までで、さいごに合同でおこなう活動┃たとえば人形劇や歌やゲームなどですが┃には幼稚部の子供たちも参加してかまいません」
ノーンオーノーイ小学校は平屋の校舎がふたつ、こじんまりとならんでたっている。正門からみて左側の校舎の廊下に全校児童が集合した。ゴザをしき、前から順に一年生・二年生・三年生……六年生とすわっていった。
プリッサナー先生がクローンゲーオ先生とニッタヤー先生を紹介してから、取材しているわたしのほうをみながら言った。
「そこにいる男の人はだれだかおぼえているかな。このあいだ学用品の贈呈できましたね。そのとき日本語をおそわりました。では日本語であいさつしてみよう。できるかなあ、一、二、三!」
「こん…、こん…、あれ、なんだっけ」
そこでゆっくりとわたしが発音してみせる。
「こ・ん・に・ち・は」
子供たちはおもいだしたらしい。はじけるような大声で、全員であいさつする。 「コンニチハ!」
「日本からお客さんがこの学校へくるかもしれません。だからみんな一所懸命に勉強し、たくさん本を読んでよい子になろうね」
プリッサナー先生にかわってこんどはクローンゲーオ先生がおおきな絵本を一冊もって前にでた。
「これは『とびだす絵本』です」
絵本をひろげてみせる。
「うわー、すっごいなあ」
「なんの物語かわかりますか」
何人かの子供たちが即座にこたえる。
「シンデレラだ」
「こういう本を読んでみたい?」
「読みたいです」
つづいてニッタヤー先生が動物の生態について解説した「とびだす絵本」を披露した。この絵本は絵が立体化するだけではなく、動物の顔や手足がうごく仕掛けになっている。ニッタヤー先生がじっさいに絵をうごかしてみせると、ふたたび子供たちの大歓声がわきおこった。
「どう、きれいな絵本でしょう。力まかせにつよく絵をうごかしてはいけません。大事にやさしくあつかいましょう」
ノーンオーノーイ小学校の児童たちはじつに礼儀ただしい。元気いっぱいだが、しずかにするべきときはしずかにするなど行動にけじめがある。
「本は友だち」の歌をニッタヤー先生が中心となって指導したあと、全校児童たちは三班にわかれた。五・六年生は校舎の左方向にある森のなかで。「学校の森」とタイ語でかいた看板がたっている。三・四年生はそのまま平屋校舎の廊下にすわり、自己紹介からはじめた。一・二年生はもうひとつの平屋校舎(一〜四年生と幼稚部の教室がはいっている校舎)の前の木陰へ移動した。
こんもりとした森のなかに陣取った五・六年生たちはプリッサナー先生から読書感想ノートを一冊ずつもらい、名前・学校名・学年などを表紙にかきこんだ。ついで一ページ目をひらき、日付・本の題名・感想の欄のかき方をプリッサナー先生が懇切丁寧におしえた。そして鳥の生態についてかかれた絵本をプリッサナー先生が読み聞かせする。子供たちは絵本に見入り、プリッサナー先生の話に真剣に耳をかたむけている。熱中するあまり口を半開きにしたままきいている子も。 (続く)
杉浦 直樹
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