移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜


ワングン小・ノーンセーンシラー小(後)

 読書は午前十一時までつづいた。

 三・四年生は校舎正面の入り口前の木陰にゴザをしいた。五・六年生とおなじく、全員読書に熱中している。やはり黙読だ。ときおり小声でとなりの友人とささやきあったりしているが、読書と関係のない行動をする子供はいない。読む速度もはやい。十五分ほどたつと一冊読みおえた子が数人出てきた。その様子を見てニッタヤー先生が口をひらいた。

 「本を一冊読みおえたら、さきほど渡した読書感想ノートに本の題名・感想を記入してから二冊目を取りにきましょう」

 まったくしずかに読書していた子供たちだったが、ニッタヤー先生が所用で席をはずすと、とたんにたちあがって場所を移動したり、私語を交わしたりする男の子が出てきた。それでもクアン小学校の児童のように大声でわめきたてたりはしない。ニッタヤー先生がもどってくるのが見えると、「オイ、先生、帰ってきたぞ」とだれかがささやき、またしずかになる。

 午前十一時をすこしまわったころ、本箱・ゴザなどの片付けがはじまった。

 食堂兼講堂にのこった一・二年生は長いすにすわらず、コンクリートの床にゴザをしいた。子供たちの自己紹介などにつづき、クローンゲーオ先生が絵本「正直者の子豚ちゃん」を読み聞かせしてから読書にはいった。  「いまのお話、おもしろかったかな。つぎは自分で本を読んでみましょう。ここに本を入れた箱があります。一年生から順にならんで、ひとり一冊ずつ本をとってください」

 クローンゲーオ先生が本の箱のふたをあけてなかをみせると、子供たちはいっせいに驚きの声をあげた。生まれてはじめて目にするきれいな装丁の絵本が箱いっぱいにぎっしりつまっていたからだ。

 五・六年生や三・四年生とちがって、一・二年生はしずかに黙読というわけにはいかない。児童たちはゴザの上にすわって本をひらいたものの、ワイワイ、ガヤガヤとずいぶんにぎやかだ。

 ここも一年生は読めない。絵をながめて動物や果物の数をかぞえたりしている。大部分の子供がペラペラッとページをめくり、なかの絵をみておしまい。あとはまわりの友だちとあそんでいる。二年生はたどたどしいが、声にだしてゆっくり一語ずつ読んでいる子が多い。

 ワングン小学校の女性の先生がふたり、クローンゲーオ先生といっしょに指導にくわわり、一年生を中心に読み方をおしえている。

 「自分の本にあきたら、友だちの絵本と交換して読書をつづけましょう」

 ときおりクローンゲーオ先生が子供たちに声をかけ、のんびりと読書がすすむ。

 午前十一時をすぎると、五・六年生と三・四年生が読書をおえて、一・二年生のいる食堂兼講堂へ三々五々もどってきた。全員そろったところで、プリッサナー先生が児童たちにきく。

 「あそこでスイカを売ってますが、みんなおなかがすきましたか」

 いましがたリヤカーをひいた物売りのおばさんがワングン小学校にやってきて、食堂兼講堂の一角に陣取った。カノムジーン(タイ風ソウメン)・ソーセージ・つみれだんご・スイカ・お菓子類を売っている。児童たちの昼食だ。

 「ではご飯をたべる前にわすれてはならない大切なことをいまからいいます。みんな手をひらいて、その手のひらを見てごらん」

 「真っ黒です。よごれています」

 「手には目にみえないバイキンがいっぱいついています。君たちはご飯をたべる前になにをしますか」

 「手をあらいまーす!」

 ニッタヤー先生の指導で「手をあらおう」の歌を全員で練習した。三回うたい、ニッタヤー先生が子供たちによびかけた。

 「みんなだいたい覚えたようですね。いいですか、ご飯の前にはかならず手をきれいにあらいましょう」

 全校児童はたちあがり、三人の指導員たちへお礼のあいさつ。そして低学年から順に各教室へ帰っていった。

 ほどなく、ひとにぎりのもち米と串にさした豚肉の炭火焼き二本をビニール袋にいれた一年生か二年生の男の子が食堂兼講堂にやってきた。いすにすわり、ひとり黙々とたべはじめた。

 その子のちかくで五人の女の子がかたまって食事している。献立は主食のもち米をはじめイサーン風の牛肉のソーセージ・卵と豚肉の煮物・豚肉の炭火焼きなど。五人のなかのひとりが自宅からもってきたという。だれがつくってくれたのか尋ねると、その女の子は消え入るような声で「お母さん」とこたえた。これだけの人数にしては分量がひじょうにすくない。

 またリヤカーの物売りおばさんの所でカノムジーン(量によって値段がことなる。ひと皿三〜五バーツ)を買っている子もいる。子供たちは、タレのかかったカノムジーンの皿をおばさんからうけとり代金をはらうと、リヤカーの端においてある金属製のまるい容器からモヤシ・青野菜をてきとうにつまみ皿にかけ、いすにこしかけてたべている。

 自宅から弁当を持参してくる児童と物売りのおばさんから買う子と半々ぐらいか。食堂兼講堂いがいでは運動場の木陰で、それぞれ家からもちよった弁当をわけあってたのしそうに食事している。

 たべる物・たべる速さ・たべる姿勢・すわる向きなどひとりひとりすべてちがう。個性的でよい。全般的にたべる量はそんなに多くないが、食事内容はイサーンの村のなかでは「上」の部類にはいるのではないだろうか。

 スイカにかぶりついている子が五、六人。意外とすくない。

 食事がおわると子供たちはなれた手つきで皿とさじをリヤカーの横へきちんとかたづける。そして運動場へはしってゆき、ボールなどで遊びはじめた。

 まもなく正午。三人の指導員たちはワゴン車にのりこみ、午後の学校・ノーンオーノーイ小学校へむかった。

杉浦 直樹


[BANGKOK SHUHO]