移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜


クアン小(3)

 一・二年生は三・四年生に輪をかけてうるさい。自己紹介をしている最中も、正面にいるクロンゲーオ先生にお尻をむけてさわいでいる一年生男子が五〜六人いる。三・四年生、五・六年生と同様、これまでおとずれた小学校のなかで、ここがいちばんいたずらっ子が多く、元気でにぎやか。クローンゲーオ先生の声もしだいに大きくならざるを得ない。

 「いまからゲーオ先生が絵本を読んであげましょう」

 「ワーイ!」と、子供たちいっせいに拍手。

 クローンゲーオ先生が手にした絵本は「正直者の子豚ちゃん」という一冊。クローンゲーオ先生の読み聞かせがはじまると、さきほどまであれほどうるさかった子供たちが水をうったようにしずかになった。誇張ではなく、文字どおりまばたきせず絵本に見入っている。ひとことも言葉を発しない。

 読み聞かせが終わるとクローンゲーオ先生が子供たちに尋ねた。

 「君たちもこの子豚さんのように正直な人になれるかな」

 「はーい、なれまーす」

 「ではここに絵本がたくさんあります。こんどは自分たちで読んでみましょう。本を読みたいですか」

 (子供たちはちいさい声で、しかも数人がパラパラと)「よ・み・た・い・です…」

 「声がちいさくて、聞こえません!」

 (こんどは全員で声をあわせて、元気よく)「はーい。読みたい、でーす」

 「二年生はひとりで読めますか」

 「読めます」

 「一年生はどうかな」

 「はい、読めるとおもいます」(と半分くらいが答える)

 「ほんとかなあ?よろしい、本をくばりましょう」

 じっさいには一年生のほとんどが文盲状態。まず自力で読めない。だから絵本の絵をながめ、よろこんでいるだけ。本のページのめくり方を黙々と練習している子もいる。

 それに対し二年生は多少は読めるようで、三分の一の児童は人差し指で絵本の文章を一字一句指さしながら声にだしてゆっくり読んでいる。だが三分の二は一年生と同様まったく読めない。絵本をもったまままわりの友だちとおしゃべりしたり、ふざけあって遊んでいる。

 それにしてもみな本のあつかい方はメチャクチャだ。ページをグシャッとわしづかみにしてめくり、すぐに折り目をつけてしまう。新品の絵本がたちまちのうちにしわだらけである。乱雑に本をあつかっていると、すかさずクローンゲーオ先生の注意がとぶ。

 「ほらほら、本のもち方がちがうでしょう、君は」「そこの一年生の男の子。そんなに乱暴にしたら本がかわいそうですよ」……などなど。

 本日午後の気温はおそらく四〇度いじょうはある。暑い。とにかく暑い。小学校でつめたい水を準備してくれたが、いくらのんでもノドがかわく。半袖シャツは汗でびしょぬれ。すそをしぼると汗がしたたり落ちてくる。

 この酷暑にもかかわらず、クローンゲーオ先生はたいへん元気だ。力強い指導力で、子供たちをぐいぐいひっぱってゆく。何よりも声がいい。おおきく、張りがあり、遠くまでとどく。移動のワゴン車のなかでもよく話し、つかれたそぶりはみじんも見せない。わたしはぐったりしているのだが……。

 各班ともおおいにもりあがり、予定時間をこえてしまった。午後三時四十五分、「先生、どうもありがとうございました!」。全校児童の威勢のいい声がひびき、移動図書館はおわった。

杉浦 直樹


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