移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
コー小(2)
三・四年生は食堂のコンクリートの床の上にゴザをしいた。ニッタヤー先生から読書感想ノートを一冊ずつもらうと、子供たちはめずらしそうにかつ真剣な表情でノートの表紙をながめたり、中をめくったりしている。ニッタヤー先生は読書感想ノートのかき方を説明してから、鉛筆と消しゴムが整然とおさまっているカゴを示した。
「この鉛筆や消しゴムは君たち個人のものではありません。コー小学校だけでなくほかの小学校のお友だちもつかいます。ですから、いまからみんなに貸し出しますが、きれいに大事につかってくださいね。さあ、読書感想ノートの表紙に名前・学年・学校名をゆっくり、おおきく、はっきり、きれいにかきましょう」
鉛筆・消しゴムのはいったカゴをニッタヤー先生が子供たちにまわす。児童たちは一本ずつ鉛筆をとりだし、ノートの表紙へ記入しはじめた。男の子も女の子も私語をかわさず、しずかに作業にとりくんでいる。
「自分の名前をかけない子はいないかな」
ニッタヤー先生がやさしく子供たちへ声をかける。
薄い絵本を一冊ずつニッタヤー先生から手渡された子供たちは本をひらき、読書にはいった。みな音読だ。なかにはあまり読めない子もいて、ニッタヤー先生が横にすわり読んで聞かせてあげている。
本に顔をくっつけるようにして読む子。文章が多めだとななめに読み、絵だけながめている子。指で文字をおいながら読む子。だいたいみな熱心に読書している。
午前十一時。読書がおわった。自己紹介につづいて、ニッタヤー先生が本のしまい方を指導した。
「本はおなじ向きにそろえてきちんと箱のなかへしまいましょう。グチャグチャにしまう子は、かけ足で運動場一周、ですよ」
子供たちは神妙な面持ちで一冊ずつ本を箱へもどしていった。
「読書のあとはなにをしようか。みんなゲームは好きかな?」
「大好きです」
「そう。では先生(ニッタヤー先生)が、『一回!』といったら君たちは一回手をたたいてください。『三回』といったら三回たたき、『四回』ならよっつ手をたたくんですよ。いいですか、わかりましたか」
「わかりました、先生!」
ニッタヤー先生が、「三回」「一回」「二回」「一回」「四回」……などとかなりの速さで言ってゆく。単純なゲームだが、けっこうむずかしい。二度、三度とつづくと、まちがえる子供がかならずでた。
ゲームのあと、「手をあらおう」の歌をニッタヤー先生がおしえた。
一・二年生はクローンゲーオ先生の自己紹介からはじまった。
「先生の名前をおぼえているかな」
(子供たちは自信なさそうに小声で)「……ゲーオ先生…」
「そのとおり。ではみんなの名前をおしえてください」
子供たちはひとりずつ前に出て自己紹介した。
クローンゲーオ先生といっしょに指導しているコー小学校の女性の先生はなかなか熱心だ。子供たちが青い木製の図書箱から本をとりだすとき、「ほら、一列にならんで。順番だよ、順番」と声をかけたり、読書ちゅうも「本は大切に。ページをめくるときは、ゆっくり、ゆっくり」と精力的に指導している。
読書の時間といっても一・二年生は自力で読めない子供ばかり。本を手にしたものの、ひらいて絵をじっと見つめていたり、となりの友だちの本と見くらべたりしている。クローンゲーオ先生がひんぱんに声にだす。
「読めない子はゲーオ先生が読んであげますよ」
子供たち、とくに一年生は文字がほとんど読めないので、パラリパラりと本の中身をみてはすぐに別の絵本ととりかえる子がめだつ。それでも本のもち方・ページのめくり方は教えられたとおり、忠実にまもっている。左手に本をもち、右の人差し指でそうっとゆっくりページをめくっている。
午前十一時すぎ、読書がおわった。三・四年生でやっているゲーム(指導員の言った数だけすばやく手をたたく)でひとときをすごした。一度の「三回!」で一割ぐらいが四回いじょう手をたたいてしまうなど、三・四年生よりもまちがえる子供が多い。
十分ほどゲームであそんでからかたづけ。ゴザなどをしまう。このゴザはおりたたみ式なのだが、一・二年生はうまくたためず、ただ丸めているだけだ。指導についていたコー小学校の女性の先生が見かねて「こうやってたたむのよ」と手本をしめしていた。
十一時二十五分、一年生から六年生まで全校児童がふたたび食堂にあつまった。全員そろうとニッタヤー先生が食堂の壁にかかっている時計を指さした。
「いま何時ですか」
「十一時二十五分、です」
「あと五分で、移動図書館のおわる時間になります。みんなおなかがすいたでしょう」
「はい、すきました」
「ごはんの前にはかならず手をあらおうね」
ニッタヤー先生はそう言って「手をあらおう」の歌の指導をはじめた。
「さっき、三・四年生にはおしえましたね。三年生と四年生は一度うたってみてください」
三・四年生が一回だけ斉唱する。歌詞も旋律もしっかりおぼえている。たいしたものだ。
「一・二年生と五・六年生、どう、聞いていて、むずかしいかな」
「いいえ、うたえます」
手をたたき、元気よく全校児童で三回ほどうたった。ここでちょうど十一時半になった。ニッタヤー先生が時計に目をやる。
「さあて、時間になりました。みんなしっかりお昼ごはんをたべるのですよ。たくさんたべて、一所懸命勉強しましょう。はい、きょうはおもしろかったかな」
「はーい」
「移動図書館が毎日きてもいいかな」
「きてほしいでーす」
「ゲーオ先生・メム先生・ピム先生は美人?」
「とってもきれいです」
「ハハハ。ありがとう。ではまた会いましょう、バイバーイ」
「ありがとうございました、移動図書館の先生!」
杉浦 直樹
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