移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
96年6月6日(木)=午前=コー小(1)
東の地平線から太陽が顔をだすころ、空をあおぐ。雲のかけらひとつ落ちていない。それほどみごとによく晴れている。にくらしいほどだ。本日も快晴。日差しがつよく、しかもむし暑くなりそうだ。
コンケーン大学から西へ車で三十分はしると、コンケーン県バーンファン郡コー村についた。コー村の小学校は児童百十三人(幼稚部もふくむ)、教師は校長先生以下八人。正門をはいると、運動場をかこむようにして道らしきものがついている。涸れ川のような道。ワゴン車でゆっくりとすすむ。四分の三周ほどした所に「食堂」とかかれた平屋の建物があり、ここへ全校児童が集合した。
プリッサナー先生が移動図書館の活動についてわかりやすく説明したあと、ニッタヤー先生が自己紹介した。まだ風邪がなおっておらず、声がややかすれている。
「風邪でおおきな声がだせませんが、うしろのほうにいる五・六年生、わたしの声がきこえるかな」
ついでクローンゲーオ先生が児童たちに自分の名前をしらせ、食堂の前に駐車してある移動図書館のワゴン車を指さした。
「みなさん、外にとまっているワゴン車が見えますか? 文字がかいてありますが、読めるかな」
「い・ど・う・と・しょ・か・ん(移動図書館)、でーす」
一日目の二校よりさらに子供たちの反応がするどく、威勢がいい。
ワゴン車から「とびだす絵本」をとりだしたクローンゲーオ先生が本のもち方・ページのめくり方の見本をしめす。
「左手で本の背をささえ、右手の人差し指をこのページとつぎのページのあいだに右上からいれて下へすうーっとおろします。そしてページの端をやさしくつまんでめくりましょう」
子供たちは手の動かし方・指の動かし方を真剣にまねする。
ここの小学校でも、絵が立体化する「とびだす絵本」を披露すると、子供たちのあいだからおおきな歓声があがった。わたしのとなりで見学していたコー小学校の女性教師が話しかけてきた。
「こんなすばらしい本を子供たちは見たことがないので。ここら農村部には本などほとんどありません。あったとしても、ふるくて薄っぺらなごくふつうの絵本しかないのです」 先生とわたしが話していると歌の指導がはじまった。ニッタヤー先生が「本は友だち」の歌詞をかいた紙を前にかがけ、タンバリンをたたきながらこの歌を子供たちにおしえる。建物のなかにいるためだろうか、子供たちの歌声が部屋じゅうにこだまする。ガンガンとつよくひびき、耳がいたいほどだ。手をたたき、力いっぱい声をはりあげてうたう小学生たち。心底たのしそうなかれらを見ているだけで、こちらもついうれしい気持ちになってくる。
午前十時になった。三班に分散する時間である。プリッサナー先生が担当の指導員を発表する。
「さあ、いよいよこれから読書の時間にはいります。本のはいった箱がワゴン車にあります。とっても重たいので、みんなで協力して箱を外にもちだしてくださいね。その前に担当の先生(指導員)をきめましょう。クローンゲーオ先生は一・二年生、ニッタヤー先生は三・四年生、わたしは五・六年生といっしょに勉強しましょう」
一・二年生は食堂となりの二階建て校舎前の木陰へ、五・六年生は小学一年生から四年生までの教室がはいっている正門ちかくの平屋校舎前の木陰へ。三・四年生はそのまま食堂で活動をはじめた。
イサーンの小学校では週に一回ボーイスカウト・ガールスカウトの日がある。この日、木曜日はちょうどその日で、五・六年生の大部分はボーイ・ガールスカウトの制服を身につけていた。木陰にゴザをしき、その上に児童たちがすわると、自己紹介がはじまった。ひとりずつ前へ出て名前などを言ってゆくのだが、どの子もやや緊張ぎみだ。声がちいさかったり、やたらと早口だったりする。コー小学校の男性の先生も指導にくわわり、「もうすこしゆっくりとおちついてしゃべろう」「声がちいさくて、きこえないゾ」などと笑顔で注意している。
五・六年生は四十人ほどいる。このうち男子ひとり・女子三人はボーイスカウト・ガールスカウトの制服を着ていない。男性の先生の話では、この子たちの家庭はまずしくて服を買えない。
自己紹介がすむと、プリッサナー先生が読書感想ノートを児童たちへくばり、かき方をひととおり説明した。三・四年生にくらべ、みなスラスラと表紙に自分の名前などを青いボールペンでかいてゆく。そして読書へ。
午前十一時すぎまで、およそ三、四十分読書がつづいた。ほとんどの子供がひとり二冊は読んだようだ。読書感想ノートに必要事項をかきおえると子供たちはノートをプリッサナー先生へ提出し、間違いがないかどうかみてもらった。
食堂のならびに幼稚部の平屋校舎があり、その横に「遊園地」という看板がでている。ぶらんこなどかんたんな遊具があり、子供の遊び場になっている。午前十一時ごろ幼児ら三十人あまりがぶらんこに乗ったり、はしりまわったりして遊んでいた。また洗剤をまぜた水のはいっているバケツを六、七人の子供がかこみ、にぎやかに手をあらっていた。もうすぐ昼食なのだろう。
杉浦 直樹
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