移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜


ノーンパヨーム小(3)

 自己紹介がすむと、プリッサナー先生が読書感想ノートを子供たちへ手渡し、午後二時四十分読書がはじまった。子供たちが本を読みはじめてまもなく、プリッサナー先生が全員へつげた。

 「読書時間は午後三時までの二十分間だけ。午後三時になったらカバンの寄贈がありますからね」

 とたんに子供たちはしずかになり、本に没頭する。二十分間とみじかい時間だったが、ひとり一〜二冊読んでいた。

 「カバンの寄贈」とは極貧の児童へ寄付する学用品一式のこと。移動図書館で毎年おこなっている。ことし(一九九六年)は移動図書館の第八期でまわる十三校が対象で、一校あたり十八人(各学年で三人ずつ)へカバン・教科書・ノート・ゴムぞうりなどを五月に一組ずつ贈った。ただしノーンパヨーム小学校のみ時間の関係で贈れなかったため、この日贈呈することになっていた。

 三・四年生もまず子供たちの自己紹介から。

 「みんな初めてなので先生(ニッタヤー先生)に名前をおしえてください」

 子供たちはひとりずつ自己紹介にたった。

 ついで読書感想ノートをくばり、ノートを利用して本のあつかい方法をニッタヤー先生がおしえる。

 「左手で本をもち、右手の人差し指をつかって本をめくるのよ。右の人差し指はどれ?わかる?」

 子供たちは右手の人差し指をさしあげる。

 「移動図書館はノーンパヨーム小学校だけでなく、ほかにも十二の小学校へ行きます。だから本は大切につかおうね」

 ニッタヤー先生は、本は貴重品であることをくりかえし強調した。

 子供たちは読書感想ノートの表紙に自分の名前などをかいてから、ひとりずつ順番に長方形の青い本箱から一冊ずつ絵本をとりだし、ゴザに座って読みはじめた。

 五・六年生がほぼ全員黙読しているのに対し、三・四年生はみんなボソボソとちいさい声にだして読書している。子供たちは一冊読みおえると、ニッタヤー先生におしえてもらったとおり、読書感想ノートへ日付・本の題名・感想(たいへんおもしろかった・おもしろかった・つまらなかったーのどれかひとつを記入)をかきこんでいる。

 「一冊読んでノートにかいたら、本を元の場所へしまいましょう」

 ニッタヤー先生のこまかい指導がつづく。

 フアイヒンラード小学校でもみられた光景だが、三・四年生の活動についているノーンパヨーム小学校の女性の先生がさきほどから熱心に移動図書館の本を読んでいる。あまりにも熱中しているので一枚写真にとった。

 三・四年生とおなじように高床式校舎の下の一角にすわった一・二年生たちは、クローンゲーオ先生の「みんなのお名前をおしえて!」というひとことを合図にひとりずつたちあがって自己紹介。低学年の子供たちは体がちいさくて、日本の幼稚園児なみの体格だ。コロコロしてとてもかわいい。

 昼ごはんをたべたためか、子供たちはねむそうだ。自己紹介がおわると、クローンゲーオ先生が張りのあるおおきな声で子供たちによびかけた。

 「眠気をふきとばそう。ほら、手を上へあげてごらん!」

 児童たちは両手を上にのばして手を閉じたり開いたりして気分転換した。睡魔が解消されたところで、クローンゲーオ先生が絵本「正直者の子豚さん」の読み聞かせをした。

 読み聞かせのあとは自分たちで読書。子供たちは本を一冊ずつ手にすると、ゴザの上に輪になってすわり読書に取り組みだした。一・二年生は自力で読めない子がめだつ。クローンゲーオ先生はじめ、ノーンパヨーム小学校の先生がふたり子供たちの輪のなかにはいり、いっしょに読んであげている。

 わたしが子供たちの読書風景をながめていると、クローンゲーオ先生がそばにきてこう言った。

 「小学一年生はこの五月に入学してきたばかり。まずほとんどが文字をまともに読めない。二年生はまあまあ。ゆっくりと時間をかければだいたい読める。でも村の小学校には書物がほとんどないので、日ごろ読書に縁のない子供たちは、たとえ二年生でも読み書きはまだ満足にできない」

 二十分ほどの読書がすむと、こんどはクローンゲーオ先生が本のしまい方を子供たちにおしえた。

 「箱のなかへ本をほうり投げたりせず、しずかに、そうっと本をしまいましょう」

 午後三時十五分。ふたたび高床式の校舎下へ全員あつまった。移動図書館から、小学校側でえらんだとくにまずしい十八人へ学用品を一式贈った。

 ターマオ村のブッサボンちゃんもふくまれていた。そういえば、この子の家は「家」というより「屋根のついた囲い」といったあばら家で、電気もなかった。消息のしれないワッタナー=デークントッドちゃん同様、どん底の貧困にあえいでいたことをおもいだした。

杉浦 直樹


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