移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
ノーンパヨーム小(2)
学校側からは八人の教員のうち、校長先生以下七人が顔をそろえた。プリッサナー先生が、「移動図書館は午前もしくは午後の二時間・毎月二回おこないます。期間は二年で、はじめの六カ月はわたしたち移動図書館の職員が中心となって指導してゆきます。七カ月目以降は小学校の先生方にも積極的に活動に参加していただきます」などと説明した。
学校側との話し合いは十五分ほどでおわり、午後一時二十分、三人の指導員たちは下へおりてきた。高床式校舎の下でおとなしく待っていた児童たちを指導員たちは笑顔で見回したあと、プリッサナー先生が口をひらいた。
「みなさん、こんにちは。さて、わたしたち三人の名前がわかりますか」
「メム先生 です」
ターマオ村からかよっている子供がひとり、プリッサナー先生の名前をいう。
「そのとおり。ではこちらの先生はわかるかな」とニッタヤー先生を指さす。やはりターマオ村の児童が「ピム先生」。
移動図書館は第七期(一九九四年四月〜一九九六年三月)にターマオ小学校で一年半活動してきた。そのためターマオ村から通学している子供たちはプリッサナー・ニッタヤー両指導員をおぼている。
「ではこの先生はしっていますか」とプリッサナー先生がクローンゲーオ先生のほうをむく。
「しりませーん」
クローンゲーオ先生は一九九六年の二月から移動図書館の職員となったため、第七期の巡回には参加しておらず、ターマオ小学校の子供たちと面識がない。
「この先生はゲーオ先生。本名はクローンゲーオ。そしてわたしは本名プリッサナー、ピム先生は本名ニッタヤー先生です。ではワゴン車のなかからゴザをもってきてください」 十人ほどの児童たちがさっとワゴン車にかけより、十二枚のゴザをもちだす。手分けしてしき、全校児童たちはそのうえにきちんとすわった。
クローンゲーオ先生が新品の絵本を紹介しながら本のあつかい方について指導する。
「もしこの本を乱暴につかったらどうなるかな」
「やぶけちゃいまーす」
「そうですね、だから本は大事にあつかおうね」
つづいてニッタヤー先生がシンデレラの絵本を披露。これはページをひらくと絵が立体化する「とびだす絵本」で、子供たちはうまれてはじめて目にする。ニッタヤー先生がページをめくるたびに、「ワーイ、きれいだなあ」と子供たちはおどろきの声をあげる。
それにしてもひどい暑さだ。手元の時計は無表情に午後一時四十五分であることをしめしている。ときおり風がすこしふくだけ。日陰にただ立っているだけで、汗が流れ落ちる。体じゅうびしょびしょだ。
クローンゲーオ先生が「本は友だち」の歌詞をかいた黄色のおおきな紙をだした。二回うたったところで、クローンゲーオ先生が「じゃあ、こんどは男の子三人・女の子三人、ここへきてください」というと、男の子のみ六人が一挙に前へでてきた。
「あれえー、女の子はいないの? まあ、いいわ。ではまず六人のお友だちに自己紹介をしてもらいましょう。本名・愛称・学年・担任の先生の名前を言ってね」
「ぼくは五年生です。名前はアヌソーンです。愛称は……」という具合にはじめる。この子は先にすこしふれたターマオ村の子供である。自己紹介がおわると、クローンゲーオ先生が質問した。
「担任の先生は男性ですか、女性ですか」
「女性です」
「先生はきれい?」
「はい、美人です」
アヌソーン君はうつむき、ほほを赤くそめながら、そっとつぶやくように答える。
「えー…、えーと…、どちらの先生もおなじくらいきれいです」(笑)
またクローンゲーオ先生と子供のこんなやりとりも。
「ノーンパヨーム小学校には女の先生が何人かいますが、どの先生が一番きれいですか」 「全員きれいです」(大笑)
自己紹介のあと、前にでた六人の男の子たちは即興の振り付けをいれておどりながら歌う。午前のフアイヒンラード小学校にしろ、ここのノーンパヨーム小学校にしろ、イサーンの子供たちの音感のよさにはおどろく。音楽や歌が聞こえてくると、自然にさっと手拍子がでるし、歌の覚えもはやい。イサーンでは生活のなかに音楽が生きている。
午後二時十分。一・二年生、三・四年生、五・六年生の三班にわかれる。五・六年生は奥の平屋校舎(幼稚部・三年生・一年生の教室のある校舎)前の木陰へ。三・四年生は高床式校舎一階部分の西側、一・二年生はおなじく東側へ移動した。
五・六年生には小学校の女性の先生が指導にくわわる。プリッサナー先生が「本は友だち」の歌詞を印刷したちいさいカードを子供たちにくばり、まず児童たちが自己紹介。五年生の男子・同女子・六年生の男子・同女子の順ですすむ。どの子も胸の前で両手をあわせるタイ式のあいさつをしてから自分の名前・愛称などを言ってゆく。たまに声のちいさい子がいると、小学校の先生が「声がちいさいぞ。もっと元気だして」などと注意する。なかなか熱心な先生だ。
杉浦 直樹
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