移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜


フアイヒンラード小(3)

 ひととおり本のあつかい方を練習するとニッタヤー先生がひとり一冊ずつ絵本を子供たちへ手渡した。そこでふたたび読書ノートをニッタヤー先生が前へかかげる。

 「つぎは読書ノートの中身の書き方をおぼえましょう。まず日付の書き方です。きょうは何年何月何日ですか」

 「えーと、二五三九年(注4)六月五日です」

 「正確に書けるかな。文字はまちがっていないかな。『六月』のつづりを正確にね(注5)。それから今、君たちが手にしている本の題名を書いてください。読み終わったら、たいへんおもしろかった・おもしろかった・つまらなかった、のどれかひとつを一番右の空欄に書き入れるんですよ。わかったかな」

 「………」

 「ほうら、返事がぜんぜんきこえません。どうしたのかな 」

 「ハ、ハーイ、わかりました」

 子供たちはあわてて大声で返事をする。

 そして読書へ。寝っころがって読む子、すわってあぐらをかいて読む子など、それぞれがすきな格好で本を読んでいる。

 はじめに全員あつまった講堂で活動をはじめた一・二年生には、三〜六年生のもっている読書ノートがない。ノートに必要事項を自力で書きこめるだけのタイ語の能力がまだ備わっていないからである。

 こちらは大判の絵本をもちいてクローンゲーオ先生がページのめくり方をおしえることからはじまった。

 「左手でこうやって本をもって、右手でゆっくりとページをめくろうね。ン? 左手はどっちだろう、左手をあげて」

 子供たちはいっせに手を上へ。なかには右手をあげてしまう子もいた。

 本のもち方の練習のつぎは歌の時間。

 「みんな、ただしい本のページのめくり方できますね」

 「はーい、できます。おぼえましたあ」

 「では歌にいきましょう」

 さきに合同でうたった「本は友だち」の歌詞を書いた黄色のおおきな紙を子供たちの前におく。

 「まだ文字の読めない子もいるけれど、心配しなくていいですよ。いまからゲーオ先生が読み方をおしえてあげますからね」

 クローンゲーオ先生が一小節ずつゆっくりと読んでゆく。そのあとを子供たちがついておなじように声にだして読む。歌詞を読めるようになったところで、全員でうたってみる。元気いい。子供たちにとっておぼえやすい旋律のようだ。

 歌のあとはクローンゲーオ先生の読み聞かせ。「正直者の子豚さん」という絵本を見せながら、ときおり質問をおりまぜたりして読んでやる。そして読書へと移っていった。

 だが一・二年生はかなり騒々しい。絵本を手にしてしばらくながめているものの、すぐにあきてしまう。ひとりだけ熱心に、大声をはりあげて絵本の文章を読んでいる子がいる。フアイヒンラード小学校の女の先生も子供たちのなかへはいり、読書指導している。というより先生自身が、移動図書館のきれいで豊富な種類の図書をたのしんでいる。

 午前十一時五分。三班に分散していた子供たちは本やゴザをワゴン車へかたづけた。ふたたび講堂に集合し、午前十一時十分、学年別に縦に整列した。ニッタヤー先生が全校児童へよびかける。

 「みんなおなかがすいたかな」

 「はい、おなかがへりました」

 「お昼ご飯はどこでたべますか」

 「食堂でーす」  「まあ、食堂があるの。それはいいですね。さて手にはきたないバイキンがいっぱいついています。よごれた手のままご飯をたべるとおなかをこわしたり、病気になったりします。だから食事の前にはかならず手をあらおうね」

  手を洗おう ごはんの前に……、とニッタヤー先生が「手をあらおう」の歌を子供たちにうたっておしえる。「本は友だち」と同様、子供たちはすぐ歌詞・旋律ともおぼえてしまう。たった四回うたっただけだ。ほんとうに飲み込みがはやい。しかもニッタヤー先生がうたいだすと、ごく自然に手拍子がでてくる。

 午前十一時半、時間がきた。子供たちは声をそろえて「ありがとうございました」とクローンゲーオ先生・プリッサナー先生・ニッタヤー先生にお礼をのべ、下級生から順番に教室へ散っていった。

 (注4)タイの仏暦。二五三九年は西暦一九九六年にあたる。西暦に五四三をたすとタイの暦になる。

 (注5)タイでは、一月・二月など各月の名称がついていて、日常ふつうにつかわれている。日本の睦月・如月・弥生などとおなじ類のものととらえていい。一月は「モッコラーコム」二月は「クンパーパン」六月は「ミットナーヨン」と、日本字で書けばこうなる。

杉浦 直樹


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