アジアの風に恋をして

「夢は夜ひらく」


 宇多田ヒカル、わかりますか?

 ご存知日本でのデビュー曲「ファースト・ラブ」で日本のCDの売上げ初の六百万枚以上という快挙を成し遂げた現役高校生歌手である。〃バンコクの原宿〃と言われるサイアム・センター界隈では、よくかかっている。が、私が寄るタニヤ街のカラオケ店ではほとんど聴かない。というより、駐在員年齢者では、リズムといい歌詞といいほぼ外国の歌に近く難しくて歌いこなせないに違いない。だから、耳にしないのだろう。彼女のことでもう一つ付け加えるならば、母親が、藤圭子である。と言うと、若い年齢層の方は、Who is she?となるだろう。ベトナム戦争が激しさを増した一九六〇年代後半から七〇年代前半にかけ、日本の大学は学園紛争に明け暮れた。その時にヒットした曲が、藤圭子の陰にこもった歌い方をする「圭子の夢は夜ひらく」であった。結婚し離婚はしたが、前夫は前川清である。そうそう、今回は、宇多田や藤圭子のことを書くのではない。

 当地バンコクには、夢を持って夜働くタイ女性が相当数いる。カラオケ店からマッサージ屋、そしてゴーゴー・ガール等。彼女たちが夜の社会で働く理由は、生活苦とか親や兄弟への仕送りが多い。当然といえば当然な答だろう。その一方で、買いたいものやしたいことを計画を立てて、或いは別の言い方をすれば、夢を持って手に入れようと頑張っている女性もいる。車を買いたい、店を持ちたい、美容師学校へ行きたい等。現実に夢がかなった〃意思貫徹〃の実話を耳にする。こうしたプロ意識で一生懸命にやる夜の社交界の華たちの間に、異変が起きているようだ。女子大生の顔がちらつく…。

 九月二十一日付け現地紙「デイリーニュース」は、特集面でバックやクツ、時計といった身につける物それも何千バーツ、何万バーツもする高級ブランド品を女子大生が買いあさり、その軍資金を売春で稼ぐ傾向にあると報じた。現地紙「タイラット」も売春あっ旋業者が大学構内に入り売春誘いの声を女子大生にかけていると伝えている。英字紙「バンコクポスト」も黙っていない。勢いを増す大学生売春を「University girls 'selling bodies'」と見出しを打つ。そう言えば、マッサージ屋に女子大生だけ集まった或いは集められた専用フロアーがあるとタイ人から耳にした。

 タイ国は、売春行為が禁じられている。まして、エリートの女子大生が贅沢品を買いたいばかりに簡単に〃夢は夜ひらく〃に走っていては、困るの一言である。ニューズウィーク(七月十四日号 日本版)が、∧「タイは二つの分野で比較優位に立っている」と、バンコク駐在のある西側外交官は言う。「セックス産業とゴルフ場だ」∨と書いたのでタイ政府は同誌を非難した。が、今は話題から消えてしまった感じである。

 ストレス解消には良いカラオケ。それで私は、タニヤ界隈に顔を出す。夜の仕事に精を出す彼女たちが、私の人生暗かったか明るかったかは、夢の実現への努力と運であろう。可能な限り彼女たちの夢がかなうよう花開いてほしいと思う。    

(OVTAタイ事務所所長)
開原 紘


[BANGKOK SHUHO]