アジアの風に恋をして

タイ映画


 「おはようバンコク」というFM局がある。日曜日の朝十時にオン・エアー。

 優しい日本語の語り口で番組を切り盛りするタイ人の男性とアシスタント役の日本人女性とのトークAND音楽番組である。過日、NHKテレビの「のど自慢」(当地時間十時十五分から)を見ながら何とはなしにこのFM番組を聞いていた。

 映画紹介の話になった。「ナンナー」というタイの映画が現在上映され、タイ人の間で爆発的人気で見られているという話。テレビの音量を小さくしてその話に耳を傾けた。

 ピー(注、精霊やお化けを総称してピーと呼んでいる。「タイこだわり生活図鑑 山田均著」)の出る恐くも悲しい夫婦愛の物語のよう。英語での字幕スーパーを見せる映画館もあるとか。タイ人の多くがこの映画紹介でいう「ナンナー(ナー夫人とでもいう意味)」を見に映画館に押しかけているらしい。そうした事を耳にして、私は何か見てみたい気になった。

 英語字幕スーパーの上映映画館は、私の居るスクンビット通りの高級デパートの中にある劇場でやっていた。ストーリーは以下のような内容のものだった。

 「昔の物語。戦地より帰った夫は、既に出産に失敗し死亡した最愛の妻(映画題名ナンナー)と赤子が、ピーであることを知らずに自然と溶け込んで生活し続ける。村人は、その夫にピーと知らせるが信じない夫。が、やがて、事実を知り恐怖に陥る。ある時、高僧に悪霊払いの祈祷をしてもらいピーとなったナンナーに愛を永遠に誓うことでナンナーも赤子を抱いて無事に他界する」。

 夫婦愛の大切さ、仏教に生きる生活の重要性がシーンに何度となく出ていた。タイ国ならではの宗教に根ざした生き方、信じ方をこの映画は、教えてくれるのではと思えた。ナンナーがピーとなっても愛を夫に捧げようとするシーンの展開に涙をむぐうタイ人女性客の様子が、シートボックスのあちこちで見られた。

 八月八日付け現地紙「デイリーニュース」は、「ナンナー」の映画ポスターと主演女優を写真入りで一面トップ扱い。「想像を絶する、驚愕の一億バーツ主演女優、サーイ」として以下のような内容の記事をパナッサヤー記者が書いていた。

 〈新聞、雑誌の論評によると、今のところ、「ナンナー」ほどの興行収益を上げたタイ映画に言及するのは困難であり、驚くべき且つ信じ難いことは、実際のところナンナーを演じるサーイジャルーンプラである。ナンナーの霊を秘めた迫真の演技は見事な調和を保ち、観客の口から賞賛の声が途絶えることは無い…。〉

 記事は、この映画が一億バーツの興行収益を上げたこと、撮影に八カ月を費やしたこと、主演女優のオーディションに三千人以上もの応募者があり、結局見事白羽の矢が立ったのが、バンコク大学コミュニケーション学部三年生のサーイだったこと等を書いている。

 タイ政府観光庁(TAT)の統計によれば、昨年タイを訪れた日本人は、九八万二一一六人とか。外国人訪タイの数では、トップ。これだけの日本人がほぼ毎年当地に見える。タイ料理なりホホ笑みタイ人についての〃高い評価〃は、耳にする。が、タイ映画についての評判は聞こえてこない(昔は、「田舎の教師」や「蝶と花」といった名作があったのだが…。)しかし、先のような数字の日本人がタイ国と触れ合っているならば、私は、タイ映画ファンの一人や二人は出てくるはずと思っている。まして、日本でタイ映画の上映紹介をやればそこそこの反応は、…と思う。如何でしょう。多分、駐在生活を終え日本に帰国したら、タイ映画を見たああーいと渇望する私ではないかと思います。    

(OVTAタイ事務所所長)
開原 紘


[BANGKOK SHUHO]