アジアの風に恋をして
危 機 管 理
本紙の六月二六日発行号一面トップに小林ゆかり記者が、「狙われる無防備な日本人旅行者 不況を反映し、盗難事件急増」とした警告レポートを書いている。薄々、このような事件が発生しつつある噂は耳にしていた。が、改めて小林記者の記事に目を通すと、いつ自分の身に災難がふりかかってもおかしくない状況が、この国この街にあることを認めざるを得ない。景気低迷による失業者の増加、諸物価の値上がりで苦しい生活に追われ出したタイ人。連鎖反応して起こる社会事件なのだろう。
さて、五月の中旬に日本商工会議所の渉外広報委員会主催によって「セキュリティ講座」が開かれた。百名以上もの日系企業の役員や従業員が集まっただろうか。案内には、「タイ経済が低迷する中で従来以上治安面での影響が懸念されていますが正しい知識や情報をもとに適切な行動を心がけることがなによりも大切です」とあった。OVTA=海外職業訓練協会=では、タイの各地に三十数名の能力開発を目的にした日本企業派遣の日本人従業員を置いている。千葉市幕張での派遣前の三週間にわたるOVTA研修では、「安全対策」とした講座がある。慣れない外地での生活にいかにトラブルを少なくし身を守っていくか事例を挙げながらの危機管理専門家の講義である。私は今回のバンコクでの「セキュリティ講座」の通知に興味を持ち即出かけた。
山崎さんという「コントロール・リスク・リミテッド」の日本支社長の危機管理の話は、日常起こりえる事件の内容だけに飽きさせない数時間の講話であった。というよりも、私の経験、体験の中でありえる事例の話の内容だけに、笑ってもいられない緊張感に包まれていたともいえる。事例の載った講義資料をペラペラめくっても、タイは決して安全なランクに位置していない。否危険と隣り合わせにあるとみてもいいのではと思える。山崎さんが在タイの日本人婦人会での席で「タイは危険か?」の質問をしたところ、ほとんどの婦人が「NO」と応えたと話をした。これは、日本人婦人の答というよりも、タイ在住の邦人の平均的答え方かもしれない。OVTA派遣の日系企業従業員に会って話を聞いても、全員がといえる程、タイは「暮らしやすい」「怖さがない」といった答をする。事件・事故に会っていないからの答なのだろう。
私には、苦い体験がある。中南米のコロンビアの首都サンタフェ・デ・ボゴダ市の空港で、である。出迎えてくれた日本人商社マンの車に荷物を積み込む最中に足元に置いたショルダーバックが一瞬のすきに盗まれていた。中には、旅券、航空券、公金が入っていた。幸いにも公金は、盗難があるかもしれないとの胸騒ぎから、日本でアメリカの銀行のトラベラーズ・チェックに変えていた。それで、事件発生後、スピディーに新しく発行してもらい帰国後弁償せずに済んだ。が、旅券や航空券の再発行は、自分の〃危機管理の怠慢〃から出たしわ寄せであり自責の念にかられながらのボゴダ滞在となった。
タイに話を戻そう。最近、飲み屋の女の娘の話では、夜遅くはタクシーに乗らないとのこと。身に付けた装飾品を強要されたり身の危険にさらされる確立が高いという。ある娘は、「一人で乗る時は、トゥクトゥク一本」。いつでも外に飛び出すことができるからだそうだ。強気の夜のベテランたちが口にする怖さの増したバンコク。もう一度、気を引き締める姿勢が我々に必要なようだ。
(OVTAタイ事務所所長)開原 紘
|