アジアの風に恋をして

映画館で思う


 私は、映画を見るのが好きである。

 幼少の頃の思い出の映画は、中村錦之介主演の「笛吹童子」。その世代である。あれから今まで邦画でも洋画でもよく見てきた。一体何本位見たかわからない。読者諸氏も同じような方がいらっしゃるでしょう。

 さて、当地でも、週末には映画館通いが多い。どうせ見るならきれいな映画館がいい。それで、日系デパートの中のにしている。二〇数年前には、インドラ・リージェントホテルのビルの中の映画館やラマ一世通りのサイアム・スクエアー界隈の映画館が私の行くところだった。あれから時が過ぎ、これらの映画館には行っていない。設備機器や内装はどうなってるのだろう。

 さて、タイ国での映画館の特色は、なんといっても次週作品の紹介の後に続く「タイ国王讚歌」に合わせて、国王のタイ市民生活へのかかわりの様子をフィルム化したスクリーンに向かい、館内の客が一斉に起立し敬意を表することである。ずっと前のことであったが、事情を知らない日本人が席に座ったままでいたので不敬罪で捕まったことがあった。あれから相当たっているので、今では、そうした外国人はいないと思う。が、久しぶりに当地に来て館内の様子を見ても、以前と同様にタイ国民の国王(王族)に対する敬愛の念の熱烈な信奉さが変わらずあり驚かされる。多分、世界広しといえども映画館の中で国王讚歌に起立し敬意を表す国は、タイ国の他にないのでは、と思う(他にあったらごめんなさい)。一九七五年の政変前のラオス国王の時には、タイとは反対に映画が終わった途端にラオス国王の顔が映し出され起立した思い出が、私にはある。因みに、現在のラオス人民社会主義共和国の首都ビエンチャンには、映画館は一館を除いて全くない。その一館も各国の祝典行事の役所内容のフィルム上映であって、娯楽作品の上映ではない。では、ビエンチャン市民は、映画を見る代わりにどうするか。貸しビデオ屋からので楽しんでいるのである。極端な言い方をすると、ラオス人の多くが、三十五ミリや七十ミリの大スクリーンを見たことがないことになる。

 話をタイ国に戻そう。映画好きの私が、タイの映画館でいつも不満に思うことは、せっかくの映画の最新作、話題作が上映終了テーマ曲が流れ俳優やロケ先や撮影協力の紹介等といったスーパーが流れ始めた途端に、館内に明かりがつきプツッと映写が止まることである。もち論、タイ人を中心にした顧客に映画の余韻に浸る姿はない。たちまたのうちに戸口に歩を進めて行く。毎回この時に、「なんでタイ人はそうするの?」とちょっと文句を言いたくなる。私は、タイの映画館に足を踏み入れた二〇数年前からずっとこの状況を生むタイ人の心理を理解出来ないでいる・・・。

(OVTAタイ事務所所長)開原 紘


[BANGKOK SHUHO]