愛犬〃イー・スー〃 池で溺れそうになっていた飼い主の息子を救出

その感動のニュースはロイターを通じて全世界に報道


アントン県に住む女性、ソンポーンさん(三六)は、貧しい生活の中で息子のエッカリン君(一〇)と娘のアンスマリンちゃん(九)を連れて、田んぼの中にある池に行き、魚と野菜等を採って日常の糧とする事を日課にしていた。

今月八日午後三時頃、いつものように親子三人で池に行った帰り道、ソンポーンさんは魚の養殖池に立ち寄り、身体に付いた泥を洗い落とそうとした。その時突然足が滑り、ソンポーンさんはそのまま池に落ちてしまった。自分の身長を超える水深のある池に落ち、ぶくぶくと沈みながら手だけでもがいている母親を目撃した娘のアンスマリンちゃんは、とっさに母親を助けようと水の中に飛び込んだ。しかし、アンスマリンちゃんも泳げなかったため、母娘二人は抱き合ったまま池の中へと沈んで行った。その様子を見たエッカリン君は、母親と妹を助けようと同じく池に飛び込んだ。エッカリン君が夢中で沈んだ母親と妹を捜しながら自らも溺れそうにもがいている時、家で長年飼っている愛犬〃イー・スー〃が現れ、ワンワン吠えながら池に飛び込み、溺れる直前のエッカリン君の服を強くくわえて泳ぎながら陸地まで連れ戻した。池の淵に上がったエッカリン君は、震えながらイー・スーと一緒に近所の人に助けを呼びに走った。そこへ、ちょうど軍隊に居るピチェートさん(二一)が通りかかった。エッカリン君から事情を聞いたピチェートさんは池まで走って行き、水の中に飛び込み母娘を捜したが、二人は池の底で抱き合ったままの姿で既に死亡していたので、ピチェートさんは二人の遺体を陸に引き上げた。

仕事を終えて家に戻ったソンポーンさんの夫プラシットさん(四六)は、妻と娘が溺死したニュースを聞き悲しみにくれた。しかし、家には二人のために棺を買うお金も無かったため、アントン県の救済センターが棺を寄付したという。

マスコミは、この母娘溺死の悲しいニュースとともに、エッカリン君の命を救った賢く勇気ある愛犬〃イー・スー〃のニュースも同時に発表。

翌九日午後十二時、マスコミは次のニュースを取材した。

アントン県の県知事スチャート氏とその一行がプラシットさんの家を見舞いに訪れ、現金六千バーツと生活用品等を寄付。エッカリン君は風邪をひいて熱を出し祖母の横で寝ており、愛犬イー・スーもその横でエッカリン君に寄り添うように静かに横たわっていたという。この日は、エッカリン君の学校の試験の初日だったが、校長先生の計らいで、彼だけ試験を延期することに決まった。

スチャート県知事はプラシットさんにお悔やみの挨拶をした後、エッカリン君の寝ている所に行き、「早く元気になって下さいね」と声をかけながら頭を撫でようとした時、それまでジッと傍らに寄り添っていたイー・スーが突然スチャート氏の手に噛み付こうとした。幸い噛まれる事は逃れたが、スチャート氏はその様子を見てイー・スーのエッカリン君に対する愛情と忠誠を感じ取り深く感動したという。

プラシットさんの生活は苦しく、彼自身も余り健康ではないが、その中で年老いた母親と一人息子の面倒を見ないとならないため、県は特別にエッカリン君の今後の学費を援助する約束をした。また、妻と娘を亡くしたプラシットさんと、母親と妹を目の前で亡くしたエッカリン君の精神的ショックからの快復を少しでも助けるためにと、定期的に心理面の治療を担当する医師を派遣することにもなった。

プラシットさんは、今回息子の命を救ってくれた愛犬イー・スーについて次のように語った。

「ある日、ペプシを運んでいるトラックから一匹のメス犬が落ちてきました。その犬は足を骨折していたので私が抱いて家に連れて帰り、〃ペプシ〃と名付けて可愛がりました。そのうち近所のオス犬と親しくなり、メスの小犬が生まれました。それがイー・スーです。私達一家は、ペプシとイー・スーを家族の一員として大切にしていましたが、ある時、誰かが毒を入れた餌を知らずに食べてペプシは死んでしまいました。イー・スーは左目が見えないため、私達は特別な愛情を持って可愛がりました。今回、イー・スーのニュースが広がり、二万バーツ出すからイー・スーを譲ってくれと言う人も現れましたが、息子の命を救ってくれたイー・スーを手放す気持ちは全く有りません。死ぬまで面倒を見るつもりです。十一日にターイヤーン寺院で無くなった妻と娘の火葬式を行うことが出来るのも、県庁から寄付された六千バーツと、村人たちから香典として頂いた八千バーツのお陰です」

この名犬〃イー・スー〃のニュースは、ロイターを通じて世界中に報道された。


[BANGKOK SHUHO]

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